「ゼロ? どうかしたのか?」 デスクに頬杖をつき、ジーッとこちらを見ている赤きイレギュラーハンターに、エックスは首を傾げて尋ねた。 「…いや、別に何もないが…」 そのままのポーズで、ゼロは返事を返す。 もちろん、ずっとエックスを見たままで、だ。 「そうかい? ならいいんだけど」 (全然よくないです、隊長!) エックスの言葉に、部屋にいた第17精鋭部隊の隊員達が心の中でツッコミを入れた。 そう、ここはハンターベースの第17部隊室。 そこに、第0特殊部隊長のゼロが居座っているのだ。 朝からずっと。 しかもエックスから一番近いデスクを強奪して、ただ黙ってエックスを見ているのである。 (いや、あの、その、隊長はそれでいいのかもしれませんけど…、俺もう、この微妙な空気に耐えられません!) (変ですよ、絶対! 確かにゼロ隊長、よくここにいらっしゃいますが…) (いつも寛いでるだけなのに! 朝からずっと隊長のこと凝視ですよ!?) (ホーネックさん! どうして今日は来てくれないんですか!? っていうか俺のデスク返してください!) さまざまな思考が交錯している第17部隊室。 しかし、そんな必死な隊員たちの心の叫びにエックスは気がつかない。 しばらくは先程までと同じように書類と向き合ったり、その内容について隊員達と言葉を交わしていたエックスだが、やはりゼロの様子が気になるのか、もう一度尋ねてみる。 「もしかして、おれに何か頼み事でもあるのかい? 書類の手伝いとか?」 「…今は溜めてない」 「そっか」 話し掛けても、必要最低限しか答えないゼロ。 エックスは仕事に戻るフリをして手にしていたファイルで顔を隠し、小さく溜め息をついた。 (ゼロ、どうかしたのかな? 朝からずっと居るけど…おれに何か言いたいことでもあるのかなぁ?) 会いに来てくれるのは嬉しいんだけど…でも、話し掛けてもどこか上の空だし…、とまた、溜め息をつく。 (そういえば最近、何か悩んでるみたいだったな…。もしかして、この前の…嫌だったのかな? …チョコレート…) エックスとゼロは、恋人関係にあった。 つい先日のバレンタイン、エックスが真っ赤になりながらゼロにチョコレートを手渡していたのは記憶に新しい。 ゼロはこういったイベントに無関心だから…と、心配していたエックスだったのだが、「はい」と言って差し出したチョコレートを彼が何の躊躇もなく受け取ってくれたから安心していたのだ。 しかし…。 (…甘い物、好きじゃないって言ってたからな…。渡したときも、特に反応なかったし。嫌だったのかな? もしかしてこれって無言の抗議?) 心配性のエックスは、どんどん悪い方へと思考を傾け始めた。 (やっぱり、他の物にしておけばよかったかな。…でも、バレンタインなんだし…。あぁ、こんな堅い考え方しか出来ない自分が嫌だ…。っていうか、そもそもバレンタインに贈り物なんて止めておけばよかったんじゃ…男同士だし…) ファイルの壁の向こうで、どんどん落ち込んで行くエックス。 (悩んでないでゼロに聞いてみればいいのかな? でも、違ってたら…。ただ会いに来てくれただけかもしれないし。あぁ、おれはどうしたらいいんだろう?) 一度悩みだすと、なかなか思考の渦から浮上できないのがエックスである。 そのまま、自分の世界に入っていってしまった。 一方その頃ゼロも、同じように溜め息をついていた。 (…駄目だ…さっぱりわからん…。朝からずっと見ているのに…) 頬杖をやめて胸の前で腕を組み、また溜め息をつく。 (…エックスが欲しそうな物に、まったく見当がつかん…) そう、実はゼロ、数日前からバレンタインのお返しに何を渡せばいいのか悩んでいたのだ。 無表情でチョコレートを受け取ったゼロだったが、本当はかなり嬉しかったのだ。だから、お返しにはエックスが欲しい物を渡してやりたいと考えたのだが…思い当たる物が何もない。 悩んで悩んで悩み抜いた結果、『エックスをずっと見ていればわかるかもしれない』という結論に至ったのだ。それを、朝から実行していたのである。 しかし。 (中々わからんものだな…。やはりエックスが仕事中だからか?) 思うような結果が出ない。 だが本人に聞くわけにはいかないし、これ以外に有効な方法がゼロには思い付かなかった。 先程までとは違う方の手で、また頬杖をつく。 (まぁ、エックスを見ているのは楽しいからな…良しとするか) 仕事が終わったらエックスの部屋に行こう…などと思いつつ、とりあえずはファイルの向こうからエックスが顔を出すのを待った。 まさかエックスの頭の中からホワイトデーという存在がすっぱり抜けていて、更にはこの自分の行動がエックスを悩ませていることになど、まったく気が付かないゼロだった。 (ど、どうして隊長まで黙り込むんですか!? 隊長! エックス隊長ッ!!) (この微妙な雰囲気をどうにかできそうなのは隊長だけなんですよ!?) (し、仕事が手につきません! 俺達を助けてください、隊長!) ゼロが恐くて心の中でツッコミを入れることしかできない、憐れな第17精鋭部隊の隊員達。 真面目なエックスの部下らしく、仕事を放棄することはできない。 かといって、こんな状況では仕事がはかどるはずもない。 (あぁもう、どうしてこんな日に限って出動要請が無いんだ…) 彼等の受難は、まだしばらく続きそうである…。 END 恐れ多くも、ゼロックス祭に投稿したモノです。怖いもの知らずですね、自分(笑) …こんな駄文を、よくも出せたものです。精進精進…orz ゼロックス祭開催の時期にあわせ、バレンタインとホワイトデーの間の話です。ギャグです。 それにしても一体なぜこの日、ホーネック副隊長はゼロ隊長を呼び戻しに現れなかったのでしょうか? A:ゼロが前もって全部仕事を終わらせていたから B:ホーネックが休暇の日を狙って、ゼロがエックスの元にやって来たから C:ホーネックはミッションに出ているから(ゼロがそう仕向けた) D:その他(お客様の想像でどうぞ/笑) さて、次のうちのどれなのか…(爆) 桐屋かなる 2005.3.1 |
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