それはまるで祈りにも似た




「やはりここにいたか、エックス」


その夜。私室にいなかった彼の姿を探してハンターベースをさまよっていたゼロが辿り着いたのは、屋上。
夏とはいえ肌寒い風が吹くその場所に、彼はいた。こちらに背を向け、降り出した小雨に打たれながら、ただじっと夜空を見上げていた。

「部屋にいないから探したぞ」
「そっか…ゴメンね、ゼロ」

ゼロの言葉に返事をしながらも、エックスの視線は一点に注がれたまま。
雨で濡れるのも厭わずエックスの傍へと歩み寄ると、ゼロも同じように視線を上へと向けてみた。

目に飛び込んでくるのは、空を覆う分厚い雲と降り注ぐ雨――。


すぐにゼロは視線を空から外し、エックスにベース内へと戻るように促した。
だがエックスは返事をするもののその場から動こうとはしない。

力ずくで連れ戻すことも出来たが、何となくそうすることが躊躇われて、ゼロは黙ってエックスの隣に佇んだ。







どれだけの時が流れたのか。小降りだった雨は徐々に強さを増してきていた。
流石に生身の体ではないとはいえ、これ以上雨に打たれるのは芳しくない…とゼロが思い始めた、そのとき。


「せっかくの七夕なのにね…」

突然聞こえた、小さな呟き。
隣から聞こえてきたエックスの声は、酷く悲しみに満ちていた。
その声音に、思わずゼロはエックスを見る。エックスはいまだ雨空を見上げたままだった。

「知ってる?雨が降ったら、織姫と彦星は会うことができないんだ。再会を…信じてこの日を待っていたのに…」

ぽつりぽつりと紡がれる言葉は語尾がかすれて震えていた。まるでエックスの心情を表すかのように。
心優しい彼は、引き裂かれた天空の恋人達のことを思って心痛めているのだろうか。

それとも………。



「ねぇ、ゼロ…」


やまない雨の中、ただじっと空を見つめ続けるエックス。
唇が微かに動き、冷たく濡れたその頬に大粒の雫が伝うのを、ゼロは確かに見た。



―― 一度離れてしまったら、再び会える確証はないんだね… ――





「エックス」


その瞬間、ゼロは手を伸ばしてエックスの肩を掴むと自分の方へと引き寄せた。
何の抵抗もなしにこちらに背を向けて倒れ込んできたエックスを、ただ強く抱き締める。


「必ず会えるさ。例えどれだけ離れても、互いを思う気持ちがあるのなら…そうだろう?」


そして、強く揺るぎない意思を込めた声で、そう告げた。


「オレだったら、たとえ何があっても会いに行くぞ。どれだけ離されても…何が立ち塞がっても…、必ず会いに行く」
「…ゼロ…」

エメラルドグリーンの美しい瞳が、ようやくゼロの姿をとらえる。
振り向いて自分を仰ぎ見るエックスにフッと小さく笑いかけると、ゼロは腕の中の体を反転させて正面からエックスの顔を覗き込んだ。

「だからあまり心配するな。必ず、会える」
「そうだね。会いたい気持ちがあれば…信じていれば、どれだけ離れていてもきっといつかまた会えるよね」

ゼロの言葉にようやく笑顔をみせたエックスは、嬉しそうにそう応えたのだった。





それはまるで、七夕伝説のことを話しているかのような会話だったけれど。
でも、そこには確かに………それ以外の確かなものが在った。



満天の星の下ではなくて降りしきる雨の中、静かに交わされた約束。
祈りにも似たその誓いが破られることは、決してなかった――。



END




去年の七夕、某サイト様主催の絵チャットに参加させていただいたときに書いた物を手直ししました。
時期的にはいつだろう…あまり深く考えていないけれど、X4〜X5の間かなぁ?
エックスはたまに、こんな風に脆くなると思います。その度にゼロが救い上げてくれればいい。
ま、直接の原因はゼロなんだけどね!(青い子を悲しませるんじゃないよ…まったく)

桐屋かなる  2006.7.7
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