恋人がサンタクロース




エックスがミッションから戻ってみると、ハンターベースが凄いことになっていた。

殺風景な廊下や部屋を美しく電飾や飾り。
何やら軽快な音楽と共に、楽しそうに騒ぐ声。

何事!? と驚くエックスの前に、すっと小さな箱が差し出された。

「はい。受けとって、エックス」
「エ…エイリア?」

わけもわからぬまま、笑顔で箱を差し出してきたエイリアからそれを受け取る。
返ってきた反応がいまいち予想していたものと違ったためか、エイリアは「まさか…」と呟いた。

「もしかして…、貴方わかってないの?」
「…いったい、何のことだい?」

真面目な顔でそう返すエックスに、エイリアは思わず笑いをこぼしてしまった。

「もう…覚えていないの? 今日はクリスマスよ」
「…あ」

そうだった、とエックスはようやく思い出した。最近忙しくて、すっかり忘れていたのだ。

「じゃあ…この箱は…」
「クリスマスプレゼントよ。ハンターベースからの」
「ありがとう。開けてもいいかい?」
「えぇ」

ドキドキしながら箱を開けると、出てきたのは意外な物。


「これ…最高級のエネルギードリンクじゃないか! こんな物貰ってもいいのか?」
「もちろんよ。結構選ぶのに苦労したんだから。ハンター全員に同じ物をあげるってことになってたから…。それで、結局無難だけどそれになったの」
「確かに…エネルギードリンクなら誰だって使うからね。ありがとう、大事に使わせてもらうよ。でも、なんで今年はこんなに大掛かりにやってるんだい?」


この気合いの入った飾り付けと、おそらくパーティーでも開いているのだろうハンターベースの状況に、エックスは首を捻った。
今までハンターベースでクリスマスパーティーを開いた記憶はない。

更には真面目な性格からか、警備は大丈夫なのかと少し心配になってしまう。


「ふふふ、だって今年はお子様がいるじゃない?」

エイリアの答えに、エックスは更に首を傾げた。

「それって――」
「ちょっと、聞こえたよ!」


エックスの言葉を掻き消すように飛んできた声は、最近ハンターベースに響くようになったもの。
声の主アクセルは、足音を荒く立てて2人の元に走ってきた。

「お子様って誰のこと!? まさか、ボクのことじゃ――」
「はい、アクセル。貴方の分のプレゼントよ」
「ホント!? やった、ありがとう!」

どうやら文句を言いに来たようだったのだが、エイリアがプレゼントを渡すと一瞬にして表情が変わってしまった。
既に、先程までの怒りも忘れているようだ。


「やっぱりお子様よね」

アクセルには聞こえないようにしみじみ呟くエイリア。エックスは揉め事を避けるために、聞こえなかったことにした。

「そういえば…ゼロは? もうミッションから戻ってるかい?」

話題を変えるために、自分とは別のミッションに出ていたゼロのことを尋ねてみる。
すると、はしゃいでパーティー会場へと駆けて行くアクセルを見送っていたエイリアが振り向いた。

「ゼロなら1時間くらい前に帰ってきてるわ」
「そんなに前に? さすがゼロだな…」
「そうだ、ちょうどいいわ。エックス、お願いがあるの」

苦笑いしながらそう切り出したエイリアに、エックスは先を促した。




「ゼロ、お疲れ様」

エックスが声を掛けると、外を見ていたゼロが振り返った。
そして、彼を良く知った者でしか分からないだろうが、確かに表情を和らげる。

ハンターベース内の警備室に、彼はいた。緊急指令が一番に入ってくる所である。

「戻ったか、エックス」
「うん、今さっきね。あ、これゼロの分だよ。エイリアが渡して欲しいって」

エックスはゼロのいる窓際までやってくると、エイリアから預かっていたゼロの分のプレゼントを渡した。
そして、彼と同じように何気なく外に視線を向ける。

「エイリアから聞いたよ。君が自分から、パーティーには出ないでハンターベースの警護をする役に名乗りを上げたって」
「…あぁ」
「人の集まるところは苦手だからかい?」
「…それもそうだが…」


妙に歯切れの悪いゼロ。エックスは外から視線を戻すとゼロを見上げた。

「何かあったのか?」
「いいや、そうじゃない」

心配そうに自分の顔色を窺ってくるエックスを安心させるように笑うと、ゼロは窓に背を預けるようにして向き直った。

「あまり、クリスマスのパーティーとやらにはいい思い出がないからだ」
「それって、前に何かあったってこと?」
「あぁ…お前が入隊する前だったか? …そうだな、オレが入隊したばかりのことだ」


溜め息をひとつつくと、ゼロは両腕を広げた。

「オレのアーマーは、この色だろう?」
「うん、赤だね」
「昔な…、確かケインのじじいが連れてきた子供型レプリロイドだったと思うが、この日にオレを見て『サンタさんだ!』って言ったんだ」


思わずエックスは「はい?」と言いそうになった。
目が点とはこのことである。

確かにゼロのアーマーは赤い。だから、子供にサンタクロースに間違われたということなのだろうか?


「『紅蓮の鬼神』とか、『泣く子も黙る赤きイレギュラーハンター』とか言われてたオレに向かって『サンタさん』だぞ? 周りにいた奴等が大爆笑してな…」

当時のことを思い出したのか、ゼロは眉を顰める。そして、視線を宙へと向けた。


「それでじじいが面白がって、オレはその日のパーティーでサンタクロースの格好をするハメになった…」

もちろん出来るだけの抵抗をして大暴れしてやったが、と、あまり穏やかなことではないことをさらりと付け加える。


「もしかして…それ以来…」
「あぁ。多分オレの機嫌を損ねないように、その年からパーティーをやらなくなったんだろうな」

もう随分前の話だからそのことを覚えているやつはほとんどいないだろうが、とゼロは語った。


「…そっか、そんなことがあったんだね。初耳だよ」
「…こんな情けないこと、進んで話そうとは思わなかっただけだ」
「そんなに嫌だったのかい?」
「…あぁ。思いっきり笑い者にされたからな。それに…」

そこで言葉を切ると、ゼロはふっ、と小さく嘲った。


「…オレにはあんな姿は似合わんさ…」


聖夜に夜を駆ける、夢と希望と喜びの使者の姿など…。

思わずそう口にしたすぐ後に空気が重くなったことを感じ、ゼロは後悔した。
俯き加減だが、悲しそうなエックスの顔が見える。
この心優しいレプリロイドはあまり、自分がこういった自嘲的な発言することを好まないと知っていたのに…と。


「そうだ、今年はお前が着たらいい。たまには赤も纏ってみたらどうだ?」


だから、ゼロはわざと明るくそう口にした。さっきの言葉も全てひっくるめて、戯れにするために。
エックスはちょっと驚いたような顔をしていたが、直ぐにゼロの心遣いを理解したのか笑顔を見せた。

「おれが? いいよ、遠慮しておく。赤はゼロの色だろ?」
「そう言わずに、1度着てみたらどうだ? 案外似合うかもしれんぞ?」


2人はそんなとりとめのないことを話し続けた。
降り出した白いモノに気が付いたのは、いったいどちらが先だったか。
ちらちらと綺麗に舞う雪に見惚れ、やがて顔を見合わせ「メリークリスマス」と言葉を交わす。


「すまない。ミッションで忙しくて、何も用意できなかった」
「いいよ、気にしなくて。おれなんか今日までクリスマスのこと忘れてたんだ…ゴメン」
「お前らしいな。…何か、欲しい物はあるか?」

そう問われて、エックスは少し考え込んだが、小さく首を横に振った。

「…ううん。何もいらない」
「相変わらず物欲がないな…」


君もだろ? と返そうとしたエックスの唇は言葉を紡ぐことはなかった。
ゼロの唇が、柔らかく重ねられていたから。

それはほんの数秒だけで、すぐにゼロは離れていった。


「オレはこれでいい。…プレゼント、何が欲しいか考えておけよ」
「………もう充分だよ……」


沸騰するんじゃないかというくらい顔を赤くしたエックスが微笑ましくて、ゼロはもう1度触れるだけのキスをした。
耳まで赤く染めたエックスも、背伸びをして口付けを返したのだった。




どうして欲しいもの、わかったんだい?
やっぱり君はサンタクロースだよ。

赤い服じゃなくて、赤いアーマーだけど。
背負うのはプレゼントの入った袋じゃなくて、一振りのセイバーだけど。
トナカイに引かれたソリじゃなくて、ライドチェイサーの方が似合うけど。

それでも、君はおれにいつだって夢も希望も喜びもくれるから。

君がおれのサンタクロースだよ。

Merry Christmas




END





クリスマス合わせの話。なんとか間に合わせました(笑) あ、甘いよ…甘過ぎやしないだろうか。
少し前振りが長いような気がしますが、どうしてもアクセルと"あの"エイリアを出したかったので(笑)
エネルギードリンクっていうのは…アレです。体力回復するやつです。
本家がわかる方は、E缶系を想像していただければ…(最高級というのはつまり、S缶のことです)。
警備室とか適当です(マテ) 多分あるでしょう…。司令室とかの方がよかったかな?

桐屋かなる  2005.12.25(2005.5.12 改訂)
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