「ゼロ、ちょっといいかな」 唐突にそう言うと、エックスはオレの手を取った。 この状況は、いったい何なんだ? 何故かエックスがオレの右手を掴み、まじまじと眺めたり掌を合わせたりしている。 何をしたいのかサッパリ分からん上に、どうにも声を掛け辛い。手を掴まれているから身動きも取れん…。 オレはどうすればいいんだろうか…と思い始めたその時、ようやくエックスが手を離してくれた。 何かに納得したかのように、深く頷いて一言。 「やっぱり」 …すまないエックス、オレにわかるように説明してくれ…。 思わず心の中で呟いた思いが顔に出ていたのだろうか。少し笑いながら、エックスが言葉を付け足した。 「ゼロの手って、やっぱりオレの手より大きいんだね」 「…そうか?」 言われて、自分の手を見る。…エックスの言う通りだろうか? 確かにボディのサイズはオレの方が多少大きい。しかしあまりそういったことを実感したことはなかったんだが…。 「この前まで君のセイバーを借りてただろう?使ってる時に、そうじゃないかって思ってたんだ。君のセイバーは、おれの手には大きかったから…」 だが、エックスにそう言われてオレも納得した。 そういえばあの時、オレが片手で操るセイバーをエックスは両手で扱っていた。今思えば、それはつまりそういったことだったのだ。 その手に合わぬ武器なのに、無理をして使っていてくれたのか………このオレの「形見」を。 瞬間、込み上げたのは言葉にできない愛しさと、胸を掻き毟るような遣る瀬無さだった。 何故だ。何故、こんなにもオレを想ってくれるお前が、オレの「全て」なんだ。 問いかけても、恨んでも、現実は変えられない。悔やんでも、叫んでも、課せられた宿命は変わらない。 だがそれでも、分かっていてもなお、呪いたくなる。運命を…そして己自身を。 お前には決して言えない、真実。 オレは。あいつによって造られたオレは、お前を――。 溢れ出す激情を押さえ込むために、力一杯歯を食いしばり、軋むほど拳を握り締める。 しかし次の瞬間、その力はふっと緩んでしまった。 「おれ、君の手が好きなんだ」 そう言う、エックスの言葉と。 「大きくて…触れると凄く安心する」 先程とは違って包み込むようにオレの手に触れる、エックスの手によって。 温かな感触と柔らかな声音が、自然とオレの心の中に入り込んでくる。 「この手は、いつだっておれ達を守ってくれた。いつだっておれを支えて、時には引っ張って、行く先を示してくれた」 エックスは、いつにもまして真摯な、まっすぐな瞳をオレに向け。 ゆっくりと噛み締めるように、それでいてオレに語りかけるようにして話し。 「この手がなければ、今のおれはいないよ…ありがとう、ゼロ」 最後にそう言って、幸せそうに笑った。 嗚呼、オレは。 どうやってお前に応えてやればいい? 不器用なオレは気の利いた言葉を探すことすら出来ず。 「…ゼロ?どうしたんだ?」 ただ黙ってこの手を伸ばし、力の限りエックスを抱き締めることしか出来なかった。 エックス。お前は知らない。 オレとお前が、どんな宿命の下造り出されたのかを。 この手は。お前よりも大きい、この手は。 お前を破壊するために作られたんだ。 人の手によって生み出された この手が。 お前が好きだと言ってくれる、この手が。 未来永劫、お前を護るための手であってほしいと。 そう、願った。 END 2万HITのお礼小説です。アンケートのご協力、真にありがとうございました。 ゼロックス小説へ寄せられたコメントは「甘々」「甘々かつ寂しそうな話」「ゼロがエックスへの愛しい思いを」といった感じでしたので、参考にさせていただきました。 時間設定は、X6の後になります。 注釈として、当サイトの基本設定は『ゼロはX5の最後で自分の出生に関する全てを知った(思い出した)がエックスには黙っている』というものなのですが、勿論当サイトオリジナルのものです。 小説中ゼロが語っていることもそうです。ゲームや公式設定ではそれっぽく匂わせているだけで、明言はしていません。 …でも私はそうだと思ってます。だからこそ、ゼロックスに萌えるのです。 桐屋かなる 2007.2.25 |
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