窓から見えるのは、清々しいほど澄みきった雲一つ無い青空。 緊急指令のコール音も、切羽詰ったオペレーターの声も響かない、静かなハンターベース。 激しい戦いの末、仇敵を打ち滅ぼしたのは数週間前。訪れたのは、穏やかで平和な日々だった。 もちろん、稀に現れるイレギュラーの処分や街のパトロールなどやることはあるんだが。 だが、身を削って戦っていた時と比べると、それは明らかに『平和』と呼ぶに相応しいものであり。 「ひ〜ま〜〜」 そう、それは暇を持て余すほど退屈な日々だった。 オレ達のいる待機室に響く間延びした声は、斜め前のデスクにいる少年型レプリロイド・アクセルのものだ。 アクセル、気持ちはよくわかる。だが、それを言葉にすると――。 「アクセル」 ほら、な。 オレの向かいのデスクにいるエックスから、嗜めるような声がアクセル向かって飛ぶ。 するとアクセルは開き直ったのか、同じ事を何度も何度も繰り返した。 案の定、次に聞こえてきたのは深い嘆息だ。 「こら、アクセル」 「だって暇なんだもん。もう3日先の仕事まで全部片付けちゃったんだよ。ね、天気も良いしさ――」 「駄目だ。いつ出撃要請がくるかわからないだろ」 アクセルの言葉をピシャリと遮る硬い声に思わず苦笑が零れる。 オレ達は今週、3人揃って本部待機組だ。 いつどこでどんなイレギュラーが発生しても対処できるように、常にハンターベースで待機していなくてはいけない。 だが、ここのところ全然、まったくイレギュラーが現れず、故にやることが殆ど無いのだ。 昨日も一昨日もその前も、こうして座っていたが、1度も出撃要請などなかった。 エックス、お前のその真面目さは美徳だが…少しは目を瞑ってやってもいいんじゃないか? 「ねー、ゼロも暇なんでしょ?」 2人の会話に反応を示したからか、突然アクセルから声を掛けられた。 腕を組んで座ったまま外を眺めていたオレは、耳だけ傾けていた室内へと視線を向ける。 アクセルはぐたっとだらしなくデスクの上に突っ伏していた。きちっと腰掛けているエックスとの違いに、また苦笑を誘われる。 返事に一瞬躊躇したが、どうせエックスも、訊ねてきたアクセルもわかっているのだろうと思って正直に答えた。 「まぁな。こうも暇だと体が鈍る」 「もうゼロ、君まで…」 「そう言うな、エックス」 エックスの責めるような視線に少々の罪悪感を覚えるも、それが事実だから仕方ない。 エックスは溜め息と共に肩を落とし、逆にアクセルは伏せていた体を跳ねるようにして起こして満面の笑みを浮かべた。 「ほら、ゼロも暇だって! ね、エックス!」 「誰が何と言おうと、絶対駄目だ」 目の前で再開される、押問答。 何気ない日常の、特別でもないそんなやり取りに。 平和だ、と。 口の中だけで、そう呟いた。 そしてやけに、この空間を心地の良いものに感じた。 確かに暇で退屈ではあるが、オレはこの穏やかな日々に満足しているらしい。 昔のオレなら違っただろう。オレは戦いに喜びを覚え、そこでしか生きられないと思っていた。 だがそれももう、過去の話のようだ。 傷つき悩み、苦渋に満ちた表情を見せることのないエックスを。 子供らしい、自然な笑顔を向けるアクセルを見ていると。 オレは、戦い無き平穏な日々を心から願うことが出来た。 いつか、この刃が振るわれなくなる日が、この力が必要とされなくなる日が来ればいいと思う。 そんな日が本当に来るのかどうかは、わからないが…。 せめてこの暇な毎日が少しでも長く続けばいいと。そう、思った。 「アクセル、あまりエックスを困らせるな」 終わりの見えない言い合いに、そう口を挟んでみた。 すると先ほどとは違って、今度はアクセルが肩を落としてエックスが笑顔を浮かべる。 「だって暇なんだもん。退屈で死んじゃうよ…」 「…わかったよ。じゃあトレーニングルームで手を打とう」 がっくりと机に崩れ落ちるアクセルを不憫だと思ったのか、結局はエックスが折れる形で決着がついた。 「ホント? やった、行く行く!」 「その代わり、暴れすぎてトレーニングルームを破壊したらただじゃおかないからな」 とたんに元気になるアクセル。すぐさま釘をさすエックス。それを見ているオレ。 それはたわいもない、平穏な日常で。 「大丈夫大丈夫! ちゃんと加減するからさ!」 「わかってるならそれでいいけど。じゃ、行こうか。ほら、ゼロも行くだろ?」 「あぁ」 酷く愛しい、暇で退屈な日々だった。 立ち上がるオレの目に映るのは、相変わらず清々しいほど澄みきった雲一つ無い青空。 緊急指令のコール音も、切羽詰ったオペレーターの声も響かない、平和なハンターベース。 END 1周年&1万HIT超えを記念して。これも皆、お客様のおかげです。本当にありがとうごいます。 日頃の感謝の気持ちを込めて、1ヶ月間フリー配布となっていた作品です。 (現在、フリー配布は終了いたしております) ハンター3人組で、一応ほのぼの…でしょうか。カップリング色は出さないようにしました。 時間背景は、特には設定してないというかしようが無いというか…。とりあえず7以降で仇敵を倒した後です。 ちなみに、最初はアクセル語りだったのですが、ゼロの方がしっくりいったので変更。思ったより満足してます。 てか、そうでもしないとゼロの出番が少なかっ………いえ、何でもないですよ(爆)。 桐屋かなる 2005.12.16 |
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