レッドに認めてほしかった。 子供扱いなんかしないでほしかった。 誰よりも大好きなレッドとは、対等でいたかったから。 でも、現実はいつも思った通りにはいかなくて――。 「買い忘れはねぇだろうな?」 薄暗い灰色の建物の間を歩きながら、レッドは少し後ろを歩くアクセルに声を掛けた。 その腕には、大きな紙袋が2つ。ぎっしり詰まっているその袋の中身は、レッドアラートに属する者達が使うオイルやら燃料やら、その他様々な日用品が入っている。 レッドとアクセルは町に買い出しに行った帰りだった。人の住まなくなった区域を通り抜けて、レッドアラート本部へと向かっている。 そのレッドが背中越しに声をかけたアクセルの手には、小さな紙が1枚だけ。買い物リストの紙だ。 「………あ。ワクチンプログラム忘れてるよ」 途端、辺りに流れる不自然な沈黙。 アクセルが目線をリストの紙からレッドへと移すと、彼は建物と同じ灰色の空を仰いでいた。そして。 「くそっ、戻るぞアクセル」 小さく舌打ちをして、踵を返す。イライラした様子は否めないが、何だかんだ言っても根は真面目な男なのである。 レッドのその人の良さを知っているアクセルは、嬉しそうに笑いながら町へと戻る彼の隣に並んだ。 「(…あれ?)」 そしてそのときようやく、自分が手ぶらだという事実に気が付いたのである。 「あのさレッド。何で1人で荷物持ってるわけ? ボクも1つ持つよ」 「…やめとけ。お前には無理だ」 渡して、と当然の如く言ったのだが、レッドから返ってきたのは思いもよらない返事。 差し出した両手の行き場を無くしたアクセルは、怒りに目を細めてレッドに詰め寄った。 「何でそうゆうこと言うのさ!? 子供扱いしないでよ!!」 アクセルの突然の剣幕に驚いたのか、レッドはぎょっとした顔をして、思わず背を仰け反らせて後退る。 その隙を見逃さず、アクセルはレッドの腕から紙袋を1つ強奪した。が。 「お、重っ……」 レッドが苦もなく持っていた紙袋はアクセルの予想外の重量で。しばらくの間は耐えていたのだが、とうとう限界がきたのか地面に下してしまった。 脱力してへなへなと地面にへたり込むアクセルの頭上から、喉の奥で笑うレッドの声が聞こえてくる。 「だから言っただろうが。だいたい俺とお前じゃ力が違いすぎるだろ」 「う〜、悔し〜〜〜いっ!」 「ほら行く――」 そこまで言って、レッドはぴたりと口を閉ざした。と同時に、紙袋を持っていない方の腕をアクセルの腰に回してその体を抱き上げる。 「レ、レッド!?」 顔を赤くしたアクセルが声を上げるころには、レッドは建物の陰へと向かって地を蹴っていた。 その瞬間、廃墟に轟く無数の射撃音。 飛来した凶弾は、一瞬前まで2人がいた場所を音をたてて大きくえぐった。 その場に取り残されたもう1つの紙袋が、中身共々見るも無残なほど木っ端微塵になって辺りに飛び散る。 突然の襲撃をなんとか掻い潜って無事に建物の陰へと飛び込むと、レッドは一息ついてアクセルをその場に下した。 「んな、な………むぐ」 「大声出すんじゃねぇよ。イレギュラーだな」 あっと言う間の出来事に目を丸くしているアクセル。その口を塞ぐレッドのもう片方の手にあるのは、既に紙袋ではなく両端に刃の有る巨大な鎌だ。 「2…いや、3体ってとこだな。造作もねぇ。アクセル、お前はここで荷物守ってろ」 1つ駄目になっちまったからな、と残念そうに呟くと、レッドは少しの間外の様子を伺っていたがすぐさま隠れ場所から飛び出して行った。 残されたのは、アクセルと紙袋だけ。 「え…嘘、何これ………」 最初のうちこそポカンと口を開けていたアクセルだったが、次第に状況が飲み込めてきてその身がわなわなと震え出す。 レッドがイレギュラーの襲撃に気が付いたとき、自分はまったくわからなかった。 彼が自分を連れて逃げてくれていなければ、今頃自分はあの攻撃を受けて死んでいただろう。 そう確信出来るだけに、アクセルは悔しくてたまらなかった。 彼の足を引っ張ってばかりいる自分が口惜しい。 もしも自分があの襲撃に気づいていたら、レッドは自分ではなくてもう1つの荷物を抱えて逃げれたハズなのに。 こんな体たらくでは、子供扱いされても当然ではないか。 力任せに壁を叩き、ぎりぎりと歯を食いしばる。 あまつさえ、一緒にイレギュラー退治に連れて行ってももらえず1人荷物番だ。 もしかしたらレッドは、自分の事を役立たずだと思ったのだろうか? ――そんなのは嫌だ―― 壁に叩き付けた手で体を支えると、アクセルはゆらりと歩を進め始めた。 レッドに認めてほしい。 ボクはもう子供じゃない。 ちゃんと強くなったんだから! 少し離れた場所から、コンクリートが砕ける音が聞こえてくる。 アクセルは1度足を止め、次の瞬間勢いをつけて建物の陰から飛び出した。 どこからともなく浴びせられるエネルギー弾をかわしつつ、レッドは右へと鎌を一閃させた。雷光の如き一撃は迫ってきていたイレギュラーの頚部に深々と食い込み、勢いのまま頭部を吹き飛ばす。 起動停止したイレギュラーが倒れるよりも早く身を屈めると、その頭上を銀光が駆け抜けた。それは今まさに地面に倒れようとしていた1体目のイレギュラーの腹部に激突し、その体を軽々と弾き飛ばして壁に叩きつける。 そして風切り音を残して、今来た方角へと戻って行った。 「ギミックワイヤー…みたいなもんか? また変わったモノが出てきたな」 左手から疾走してくる2体目のイレギュラーの左手首が、カクリと外れた。そこからまたあの銀光が飛び出し、空を裂いてレッドへと襲いかかる。 だが、レッドは冷静だった。ギリギリまで引き付けると、渾身の力を込めた鎌の柄でそれを横手へと打ち払ったのである。 ワイヤーを打ち払われた衝撃で一瞬動きの止まったイレギュラーの隙を、レッドは見逃さなかった。 「消し飛べ」 勢いよく振り下ろされた鎌が生み出したのは、幅広の光の刃――ワイドショットだ。 光の刃は瞬く間にイレギュラーへと到達し、その胸元へと牙を突き立てる。この一撃で再起不能となったイレギュラーは、重力に従ってガクリと崩れ落ちた。 その後ろから飛び出す、1つの影。 「な…っ!」 最初の襲撃、そして先程まで続いていたエネルギー弾による攻撃を行っていた張本人。3体目のイレギュラーだった。 バスター状になっているその右腕は、既にレッドへと照準が合わされている。 ――避けられない。 レッドはその瞬間そう悟った。実は最初の襲撃からアクセルを連れて逃げる際に左足を撃ち抜かれていて、瞬発力が大きく低下していたのだ。 イレギュラーのバスターから光が弾けたのが見えて、レッドは致命傷を避けようと身構え、着弾の衝撃に耐えようとした。だが。 「レッドォ―――ッ!!!」 レッドを襲ったのは着弾による激痛ではなかった。 耳に馴染んだ声と共に横手から小さな体が物凄い勢いでぶつかってきて、半ば吹っ飛ばされるようにしてレッドは地面の上を転がる。 獲物を無くした弾はそのまま通過して建物に当たり、壁を粉砕して破片と粉塵を撒き散らした。 吹っ飛ばされた衝撃から立ち直り何とか身を起こそうとしたレッドは、そこでようやく自分の耳が正しかったことを知る。 「アクセル…!」 見慣れた小さな後ろ姿が、まるでレッドを守るかのようにしてそこに立っていた。 「アクセル、おま…何して――」 「いいから任せて!」 驚くレッドの言葉を遮ると、アクセルは鋭い眼光でただイレギュラーだけを見据え、半身になってバレットを構える。 瞬間、イレギュラーによる第2陣が今度はそのアクセルに向けられた。 「(外さない…全部、撃ち落としてやるっ!)」 イレギュラーのバスターが連射された音に、アクセルバレットの銃声が重なった。 両者の間で、激しく光が弾け飛ぶ。 アクセルの、まさに針に糸を通すかのような寸分狂わぬ見事な銃撃は、イレギュラーのバスターを1弾と外すことなく全て相殺していた。 だが、アクセルの動きは止まらない。流れるような動きでもう片方の手の中にあったニ丁目のバレットを構え、そしてトリガーを引いた。 「これで終わりだっ!」 放たれた一撃はイレギュラーの胸部ど真ん中へと命中し、その装甲を貫いてみせた。 バチバチッ、と嫌な音をたてながら、イレギュラーの体がゆっくりと傾むいていく。 「(や、やったぁ…!)」 アクセルは小さくガッツポーズを取ると、会心の笑顔を浮かべてレッドを振り返った。 「レッド、見ててくれた!? ボクだってこのくらい出来るんだから!」 その瞬間、勝利の喜びに浸るアクセルは周りへの注意を疎かにした。 あってはならない油断が、生じた。 「アクセルッ!」 名前を呼ばれたかと思った途端、アクセルはレッドに腕を掴まれ強引に引寄せられる。そして殆どのしかかられるようにしてその場に押し倒された。 「レ、レッド!?」 再び顔を赤くしたアクセルが上げた声に重なったのは、爆砕音。 起動停止には至っていなかったイレギュラーが、最後の悪足掻きに自爆攻撃を仕掛けたのだ。 閃光と爆風が衝撃となって無差別に襲いかかり、膨大な轟音と粉塵を巻き起こす。レッドに守られていたアクセルも、粉塵と細かな破片からは逃れられない。 「げっ、げほげほっ」 だがやがてそれらも収まり、ふさがれた視界が徐々に回復してくる。 爆発の中心地にいたあの3体目のイレギュラーのボディは、跡形もなくなっていた。 「最後の最後にやってくれたな…」 呆然とするアクセルの耳に、レッドの声が届く。 レッドは爆発の衝撃に顔を顰めながら、よろりと身を起こした。 「だからいつも言ってんだろうが。イレギュラーが起動停止したのを確認するまでは気を抜くなってな」 ほら、大丈夫か? と差し出された手にようやくアクセルは我に返り、慌てて飛び起きる。 だがすぐに、唇を噛み締めて力無く項垂れた。 また。結局また足を引っ張ってしまった。 あのとき確実に仕留めることが出来ていたなら、こんなことにはならなかったのに。 いや、ちゃんと留めを刺したかどうか確認しないで油断したことが悪いのだ。 レッドに言われていたのに。どうして自分はいつもこうなのだろう。 レッドに認めて欲しかったのに。 だから、一生懸命頑張ってきたのに。 結局自分は、いつまでたっても成長していないんじゃないだろうか。 目頭が急に熱くなり、体の奥底から何かが込み上げてくるような気がした。 涙を流す機能などないのに。 だが。 「それにしても驚いた。いつの間にあんなに射撃の腕を上げたんだ?」 たった一言。 「お前も頑張ってるんだな。これからも頼むぞ、アクセル」 たったその一言が、沈みかけていたアクセルの感情を一気に浮上させた。 見ていてくれた。ちゃんとレッドは自分のことを見ていてくれた。 この腕を認めて、頼りにしてくれているんだ。 そう思うだけで、後悔とやるせなさと自分への嫌悪感に押し潰されそうになっていた胸が熱くなる。 顔が、綻ぶのを止められない。 本当は、もっと反省したり気を引き締めたりしなければいけないことがたくさんあるのだけれど。 たまらなく嬉しくて、何度も何度も頷きながらアクセルは目の前の大好きな人に思いっきり抱き付いたのだった。 「どーして背中に怪我してたこと黙ってたわけ!?」 その後、レッドアラート本部へ帰る途中。 アクセルは両頬を膨らませるという何ともわかりやすい方法でレッドへの怒りを顕わにしていた。 実はあのとき爆発からアクセルを庇ったレッドの背中は、イレギュラーの破片やら何やらで大小無数の傷がつき、鋭い破片が幾つか突き刺さっていたのだ。 だがそれを知らなかったアクセルは、レッドに抱き付こうとして力一杯背中に手を回してしまったのである。 レッドから苦痛の声が上がったことで、ようやくアクセルは気がついたのだ。 「別に黙ってたわけじゃねぇんだがな」 「じゃあ何なの!? ボクのせいで怪我したんじゃない! 謝らせてもくれないわけ!?」 「気にすんな、大した事はねぇ。俺はお前よりも頑丈に出来てるからな。この程度、戻って修理すりゃいい。それより」 そこで言葉を切ると、レッドは紙袋を持っていない方の手をアクセルに伸ばし。 「お前が無事でよかった」 愛しそうに目を細め、ポンポンとアクセルの頭を叩きながらそう言ったのだった。 瞬間、今まで怒りに顔を赤くしていたアクセルが、それまで以上に顔を真っ赤にしたことは言うまでもない。 「な、な、な…っ! レ、レッドは全然無事じゃないじゃないかっ!」 「だからかすり傷だって言ってるだろうが。たまには大人しく守られてろ」 「おおお、お断りしますっ!」 レッドに認めてほしかった。 子供扱いなんかしないでほしかった。 誰よりも大好きなレッドとは、対等でいたかったから。 けど。 ちゃんと認めてくれていると知った今。 大事にされていることがわかるから、子供扱いも悪くないかもしれない…。 アクセルは密かに、そう思ったとか。 END 某様に某件のお礼に捧げる「レクセルでアクセルが任務先でレッドの危機を救って成長振りをアピールするも詰めが甘くやはり毎度レッドの世話になってしまうようなお話」でした。 某様、お待たせ致しました。こんなんでよろしかったら、受け取ってやってください。返品可です。 っていうか、微妙にリク内容ハズしてる気がするんですが…(汗)。任務先じゃないし…(滝汗)。 アクセルが思いの他可愛くなりすぎた…orz 何か、レッドのこと好きで好きで堪らないみたいです。 レッドはレッドで、過保護…ですね、はい。出来るだけなら危険な目に合わせたくないみたいです(爆)。 …今までで1番、レッド×アクセルっぽいかな。今までは「&」とか「⇔」っぽかったしね。 …しかし、一体どこに私は力を入れて書いてるんだ…?(爆/見れば一目瞭然) すみません、色々と趣味入ってて。書いてる本人はものすっごく楽しかったです(笑)。 桐屋かなる 2005.10.27 |
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