desire




目の前にいる君に、そっと抱きついてみる。
背中に回した腕に、ぎゅっと力を込めてみる。

あぁ、間違いない。

愛しげにおれの名前を呼ぶ、その低い声も。
優しく、でも強く抱き返してくれる、その逞しい腕も。
おれを見下ろす、その目も…穏やかな表情すらも。
何一つ変わっていない。

おれの知っている君が、ここにいる。
おれの大好きなゼロが、ここにいる。

「会いたかった、エックス」

突然告げられた言葉に、涙が込み上げた。
おれも…おれもだよ、ゼロ。ずっと君を待っていた。ずっと君を探していた。
ずっと、また会える日を信じて、君だけを想い続けていたんだ。

震える声でおれの気持ちを伝えると、君は静かに微笑み、そっとおれのメットを取り外してくれた。
額に降りてきたのは、羽根のように軽くて優しい口付け。
君に抱き締められながらされるこのキスは、とても好きだ。君がおれのことを大切に思ってくれているんだって、凄く実感できるから。
いつだって幸せな気持ちになれる。いつだって、心が温かくなる。


でも、でもね。足りないよ、ゼロ。
もっと君を感じたいんだ。もっと君に触れたいんだ。
心だけじゃ物足りないよ。おれの全部を君でいっぱいにしてよ、ゼロ。
今確かにここにいる『君』という存在を、おれに刻みつけて。
消えることのないくらいに深く深く、君の証をおれに残して。

君のこと以外、何も考えられなくしてほしい。


アイスブルーの瞳を見つめながら腕を伸ばし、赤いメットを取り払う。
落ちた君のメットが床にぶつかると同時に、おれ達は互いを求めて唇を深く重ね合わせた。
おれが君の首に両腕を回せば、君は片手に持っていた青いメットを手放しておれの腰を引き寄せ、支えてくれる。
床を転がるメットが奏でる無機質な音に、深まる口付けから零れた熱い吐息が重なった。
昂ぶり続ける心と身体は留まることを知らないのに、堅くて冷たい鎧が邪魔をする。
互いを隔てるアーマーが煩わしくて、はやく解除したくてたまらない。この距離がもどかしくてたまらない。
泣きたいほど甘くて熱い口付けに酔いしれながら、おれ達は互いのアーマーへと手を伸ばしたのだった。



好きだよ、ゼロ。
この3週間が、まるで永遠のように長かった。
好きなんだ。苦しいくらいに切なくて、もうどうにかなってしまいそうなほど、君のことが好きなんだ。

「愛してる」

最初に囁いたのは、おれだったのか、それとも君だったのか。
2つ並んで床に転がっていた赤と青のメットだけが、きっと全てを知っている。



END




ゼロックス祭(大人向け)に投稿した作品です。突発的に書いたので、比較的短め。
シチュエーションとしては、X6の再会直後、ハンターベースのゼロの部屋です(ミッションどうした)。
互いに強く相手を求める2人を書きたかったのですが…上手くいっているのやら。
でも、比較的気に入っている一品です。
因みに、これのゼロヴァージョンも存在します。表には置いていませんが(爆)。

桐屋かなる  2005.5.26
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