「あ――――!! 見つけたよ、レッド!!!」

辺りに響く、少し高めの少年の声。
大声で名を呼ばれたそのレプリロイドは、本日何度目かの溜め息をついた。




一緒にいさせて




バタバタと駆けてくるその少年型レプリロイド――アクセルを、レッドは複雑な表情をしながら見ていた。
とは言っても、彼はあまり表情が変わらない造りなので、いつもと多少目付きが違うくらいなのだが。

一方、そのアクセルもまた、かなり複雑な表情をしていた。
彼はレッドとは違って大変表情豊かな造りになっており、その複雑な心情が見た目によく表れている。
お目当ての存在を探し当てて嬉しいのだが、何か彼に対して腹に据えかねることがある…といった様子だ。

レッドの前までやって来ると、アクセルは一呼吸ついてから彼の顔を睨み付けた。身長差があるので、ほぼ真上を見る形になる。


「酷いよ、レッド! ボクを置いて行こうとするなんてさ!!」
「アクセル…。待ってろって言ったじゃねぇか…」

溜め息をつきながらのそのレッドの言葉に、アクセルは怒りをぶつけるかのように激しく壁を平手で叩いた。その怒り具合といったら、今にも地団太を踏みそうな程の勢いである。

「もう! どうしてそんなこと言うんだよ!! ボクは一緒に行きたいんだってば!!」
「…お前な…。俺達は別に、遊びに行くわけじゃねぇんだぞ。わかってんのか?」
「わかってるよ! イレギュラーハントに行くんでしょ!?」

そう、レッド率いる非合法組織レッドアラートは、対イレギュラーの自警集団だ。
最近イレギュラーハンターが弱体化したので、彼等に代わってイレギュラー対策に尽力している。
日頃から蔓延るイレギュラーに目を光らせ、見つければ処分に出向いていた。
もちろん、パトロールも欠かさない。

レッドの溜め息の理由は、先程から続くこのアクセルの主張だった。ようやく撒いたと思ったのだが、見つかってしまったのである。
今回は残れと言ったレッドに、アクセルはずっと「自分も行く」と言い張っているのだ。
確かに残れと言ったのは今回が初めてである。だからと言って、何が不満なのかレッドにはわからなかった。別にいつも全員で出撃しているわけではないし、何かあったときの為に最低1人はレッドアラート本部に残っていなくてはならない。それをアクセルも知っているはずだ。
まだ出会ってそう日が経ったわけではないが、レッドにはアクセルが好戦的な性格をしているようには思えなかった。なぜ、そこまで出撃したがるのかわからない。

あの日拾って以来、アクセルがこのように我が侭を言うのは初めてで、レッドは内心首を捻りながらも言葉を続けた。


「わかってるなら、聞き分けろ、アクセル。お前は残るんだ」

厳しい目付きで、レッドはアクセルを見下ろした。その口調も鋭いもので、彼の揺るぎ無い意志をよく表している。
しかし、アクセルは臆することなく視線をレッドに合わせた。

「嫌だ! もうレッドだってボクのイレギュラーハントの腕前、わかってくれてるでしょ!? ボクも戦えるんだ!!」

頑としてアクセルも譲らない。
レッドに拾ってもらった当初も、同じようなことがあった。その時は、レッドがアクセルの戦闘能力を知らなかったからだが、今回は違う。
あの時からそう月日が経ったわけではないが、もう数回共に戦ったレッドは既に自分の能力を理解してくれている。そう確信しているからこそ、アクセルはレッドに詰め寄った。

「この前だって、一緒に連れて行ってくれたじゃないか! どうして今日は駄目なの!?」
「だから…言っただろ。前回は危ない取引をしているだったが、今回は街で暴れているイレギュラーなんだ。お前のウリのコピー能力が通用する奴じゃねぇんだよ」
「ボクはコピー能力だけで戦ってきたんじゃないよ! ちゃんと、武器を手にして戦えるんだから!」
「あのバレットのことか? 駄目だ、あれは連射能力には優れるが威力がねぇ。今回のイレギュラーには相性が悪い。アクセル、わかってくれ。今回はここに残るん――」


「嫌だ!!」


レッドの言葉を掻き消すように、アクセルは大声を張り上げた。

「嫌だ! 置いて行かれるのは嫌だ!!」
「アクセル…」
「邪魔なんかしないから、手なんか煩わせないから、だから一緒に連れて行ってよ! 残れだなんて言わないでよ! お願い…だから……」


拳を握り締め、震える自分とは違う小さな身体。

ようやく、レッドは知った。
アクセルは出撃したがっていたわけではなくて、独りになることを怖がっていたのだ、と。
この幼いレプリロイドは常に記憶を持たぬ不安とプレッシャーを抱えながら、今までずっとそれを持ち前の明るさで隠していたのだ…。

零れそうな涙を耐えるような、その苦しそうなアクセルの表情と声に、レッドの中の"感情"が揺り動かされた。


「…もしお前に何かあっても、俺はお前を守ってやれるとは限らねぇぞ?」
「守ってくれなくたっていいよ。自分の身くらい自分で守れるんだから。だから…お願いだよレッド」

じっと自分を見上げてくる、少年型のレプリロイド。
その目はあまりにも純粋で、真っ直ぐで…。

「(俺も、甘くなったもんだ…)」

レッドは心の中で、両手を上げた。



「アクセル。お前には今回、イレギュラーハントは任せられない」

ゆっくり噛み締めるかのように呟かれたその言葉に、アクセルの目が「嘘だ」とでも言うように大きく見開かれる。
その彼の頭に、レッドは手をポンと置いた。

「お前には、街の住人の安全を守ってもらう。…行くぞ」
「え…?」

大きく開かれた目が、パチパチと瞬きをする。突然のその言葉を、ゆっくりと頭の中で反芻しながら…。

「ボク…一緒に行ってもいいの?」
「だからそう言ってるだろうが。何だ、やっぱり行きたくないとでも言うのか?」

口の片端を上げて笑うレッドの意地悪な言葉に、可能な限り首を横に振るアクセル。
そして今まで見せた中で1番嬉しそうな、輝くばかりの笑顔を浮かべてレッドに飛び付いた。

「ありがとうレッド! 大好き!!」
「あー、そりゃどうもありがとうよ」

自分にしっかりしがみ付いて、嬉しそうに擦り寄ってくるアクセルをどうして良いかわからず、レッドは暫く動くことができなかった。
しかし、やがて意を決したかのようにアクセルの頭を軽く小突く。

「アクセル、放してくれねぇと出撃できないんだが…」
「あ、そうだね……って、あ――――――!!!」
「ど、どうした…?」

パッ、とレッドから離れたとたん、何かを思い出したのかアクセルが叫んだ。
彼特有の少し甲高い大声に思わず顔を顰め、何事があったのかとレッドが問う。
その心配そうなレッドの声に罪悪感を覚えながら、アクセルは「あはははは」と枯れた笑いをしながら頭を掻いた。

「バレット、忘れてきた…」
「………。取って来い」

脱力しながら、奥を指差すレッド。
しかしアクセルは、ちらっとレッドを見たまま動かない。レッドは「しょうがねぇ奴だな…」と小さく呟いた。

「大丈夫だ、ここで待ってる。置いて行ったりしねぇから、早く取って来い」
「うん!」

そうレッドが言うと、すぐに大きな声で返事をして、アクセルは元気よく駆けて行く。
小柄な背中はあっと言う間に遠ざかった。
アクセルの背中が見えなくなったところで、レッドは小さく息を吐いて壁にもたれ掛かる。



「ふぉふぉふぉ…随分と懐かれたものじゃな」
「アリクイックか」

いつもの特徴ある声を発しながら現れたレッドアラートの中でも古参のレプリロイドに応えながら、レッドは軽く頭を振る。

「ていうか…あれだろ。生まれたばかりの雛が最初に見た奴を親だと思うようなものだろ? あれは」
「…それも間違いではあるまい。だが、甘く見ていると足元をすくわれるやもしれんぞ?」
「どういう意味だ?」
「拾ったのはお前さんじゃ。責任を持って、面倒を見るようにの」

「さて、わしは居残りじゃな」と呟くと、またあの特徴ある声を上げながらアリクイックは去って行った。


「相変わらず、読めねぇじいさんだな…」

壁にもたれたままレッドは腕を組む。レッドアラート随一の知性派レプリロイドは何でもお見通しのようだが、大抵の場合はっきりと言い表してはくれない。
アリクイックの残した言葉に引っ掛かりを覚えたレッドだったが、

「レッド〜、お待たせ〜〜〜!」

自分を呼ぶ少年の声に、今はそのことについて考えるのをやめにした。今から、イレギュラーハントという重大な仕事が待っているのだ。考えることは後でいくらでも出来る。

レッドは壁から離れ、こちらに駆けて来るアクセルを確認した後、クルリと彼に背中を向けた。


「行くぞ、アクセル」
「あ――! 待ってってば!!」



自分の到着を待たずに歩き出したレッドの背中に、走って来た勢いのまま飛び掛るアクセル。

突然の衝撃に思わず前のめりになったレッドの怒号が、レッドアラート本部に響き渡った。




END




3456HITひよ子様キリリク、「レクセル小説」です。ありがとうございました。
レクセルですけど、レッド→←アクセルですね、これじゃ…orz 
しかも、お互いまだ恋愛感情と呼べるものじゃない…。よ、よろしかったでしょうか?(汗)
今回は、まだアクセルが入団して、そう月日が経ってない頃の話です。
記憶がなくて色々不安だったろうと思うので、やはり最初の頃は常時一緒にいたかったと思うのですよ。他の誰でもなく、レッドの傍に。

桐屋かなる  2005.5.1
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送