大きな背中




イレギュラー発生の通告と共に出撃したエックスとゼロ。
実に7度目となったシグマとの戦いのあと、正式に任命された新イレギュラーハンターのアクセルも、自ら望んで彼等と共にイレギュラーの鎮圧に出向いた。

エックスは未だ少し、アクセルがイレギュラーハンターになることに反対しているようだったが、彼のイレギュラーハントへの熱の入れ様を見て、もう口を挟むようなことはしなかった。

そう、アクセルは、他の誰よりもミッションに力を入れていた。数多くの任務をこなし続け、戦場に立ち続ける。
まるで何かに憑りつかれたかのように戦い続けるその姿は、痛々しいほどまでだった。


実力のある3人の出撃により、イレギュラーの鎮圧、及び一般のレプリロイドの救助に手間取ることもなく、彼等は比較的早くにハンターベースへと帰還したのだった。




「今日のミッションも、大したことなかったね〜」

ハンターベースの廊下に、3人の足音と共に、明るいアクセルの声が響いた。任務達成に満足しているのか、エックスとゼロの前を歩くその足取りは、いつも以上に軽い。

「後は、シグナスに報告に行ったら終わりだね。2人共、早く早く!」
「アクセル、報告にはおれが1人で行ってくるよ。…ゼロ、頼む」
「…あぁ。アクセル、お前はオレと一緒に来い」


あっという間に話をつけてしまい、別々の方向へと歩いて行ってしまう2人。
突然の出来事にアクセルは何が何だかわからず、思わず呆然と立ち尽くしてしまった。

「アクセル! 何をしている、早く来い」

振り返り、自分を呼ぶゼロの声にようやく我に返ったアクセルは、首を捻りつつもゼロの後ろを付いて行った。


アクセルが付いてきたのを確認すると、それ以降ゼロは振り返ることも、言葉を発することもなく歩き続けた。
まだハンターベースに慣れていないアクセルには、ゼロがどこに向かっているのかわからない。

はぐれないように後ろを付いて行きながら、アクセルは前を歩くゼロの背中をじっと見つめていた。
すると突然、その背中がどアップになる。


「オレの背中に、何か変わったものでも付いているか?」

突然目の前に迫った背中に驚いていたら、今度は頭上から声が聞こえた。
ゼロが、至近距離で自分を見下ろしている。

その時点で、ようやくアクセルはゼロが立ち止まったのだということに気が付いた。

「わわわっ、ゴメン!」

慌てて飛び退くアクセル。
ぼうっとゼロの後ろ姿を見ていたので、気がつかなかったのだ。

「どうかしたか? らしくないな」
「べ、別に何でもないよ!」
「そうか? ならいいが…」

再び、前を向いて歩き出そうとするゼロ。
アクセルの視界には、またその背中が飛び込んできて…。

「ただ…ただ、さ」

思わず、言葉が漏れた。

「ゼロの背中って、大きいなぁって思って」

アクセルはそう言うと、ゼロとの距離を縮める。隣に立つと、ゼロを見上げた。
その差は、頭1つ分よりやや大きい。

「ほら、確かにボクよりゼロの方が大きいけどさ、そこまで凄く身長差があるわけじゃないじゃん? ゼロもノーマルな人型だから、体格だって普通でしょ?」

そこまで言うと、アクセルは目を閉じた。

「なのにさ、ゼロの背中って、すっごく大きく感じるんだよね」


似ている、と心の中で呟く。
大好きだった、あの大きな背中を思い出しながら…。



「…お前がどうしてそう思うのかはわからんが…」

しばらくたってから、ゼロが口を開いた。
まさか言葉が返ってくるとは思っていなかったアクセルは、びっくりしながら目を開ける。

そして、更に驚いた。

「オレの背は、守るべきものの為にある」

目の前のゼロが、見たことも無いほど穏やかな顔をしていたからだ。


「オレには、守るべきものがある。この命よりも大切な、守るべきものが…。この背は、それを守る為にあると思っている」
「…そっか。だからゼロの背中って、大きいんだ…」

直感でそれがエックスのことなのだとわかり、少しだけエックスが羨ましくなった。

あのゼロがこんな表情をするなんて…、その絆の深さは半端なものじゃない。
エックスには、こんなにも自分を思ってくれる人がいつも傍にいてくれるんだ…、と。


不意にアクセルは、思い出さないようにしていた大きな喪失感に襲われて、唇を噛み締めて俯いた。




「…奴にも守るべきものがあった。その命よりも大切なものがあった…そうだろう?」

そのゼロの言葉に、ハッとして視線を上げる。
目の前にいるのは確かにゼロなのに…、その姿が、今でも忘れられない大切な人とダブって見えて。

「だからもうそんな顔をするな、アクセル」

その言葉が、何度も何度も聞いたあの人の声で紡がれたように聞こえて。


アクセルは、泣きそうに顔を歪めて目の前の人の胸に飛び込んだ。


いきなりのアクセルの行動に驚いたものの、ゼロはとっさにアクセルを抱き留めて支えてやる。
腕の中のアクセルは、小さく震えているようだった。

「アクセル?」
「…ゴメン…、エックスには悪いけどさ、もう少しだけ…このままでいさせてくれない?」

ゆっくりと目を閉じて、静かに深呼吸をする。


『無理ばかりしてるんじゃねぇよ。…心配、かけさせるな』


彼の声が、確かに耳に届いた。




もう大丈夫だよ。ありがとう、レッド。





アクセルがゼロに連れられてやって来たのはメンテナンスルームだった。
待ち構えていたライフセーバーにあちこち点検されて、瞬く間に治療用のカプセルに押し込まれる。

その頃には、報告を終えたエックスもメンテナンスルームにやって来ていた。

「あ、あの…?」
「貴方は、今日から3日間はそのままです」
「ええ、何で!? ボク、別にどこも悪くないよ!?」
「馬鹿を言わないでください。働きすぎですよ。それに全身傷だらけではありませんか」

ライフセーバーの言葉に、アクセルは返す言葉が無い。ボディに傷があることは自分でもわかっていたからだ。
黙り込んだアクセルを、小さく息を吐いて腕を組んだゼロが見下ろした。

「お前は焦りすぎだ。今日のミッションでも、自分の身を省みずに突撃して傷を増やしやがって…」
「…それ、ゼロに言われたくないんだけど?」
「お前は遠距離型だろうが。オレは接近型だからそれでいいんだ」

何の迷いもなくそう宣言したゼロに、エックスとライフセーバーが溜め息をついたのを見て、アクセルは思わず吹き出した。
周りの反応を見て、ゼロが不機嫌そうになる。
アクセルは何とか笑いを堪えて、取り敢えず返事をしようとした。

「ゴ、ゴメン…。ボクさ、早く強くなりたかったんだ」
「…それと、ギリギリまで自分を追い詰めていないと、思い出してしまうから…?」
「え…」

その唐突とも思えるエックスの言葉に動揺したのか、上擦った声を出すアクセル。
エックスは、まるで耐え難いものがあるとでもいうような、苦しそうな表情でアクセルを見ていた。
心なしか、ゼロの表情も堅い。

「エックス…何言って…」

目が泳いでしまっているアクセルにエックスは首を横に振り、「わかるんだ」と小さく呟いた。

「…まるで、昔の自分を見ている様だったよ。失った悲しみに耐えられなくて、自分だけが生き残ったことが罪のように思えて、自分を追い詰め続けていたころのおれと一緒で…おれもゼロも、もう黙って見ていられなかった」

今は健在だが、昔のエックスが"失った"という存在がゼロなのだということは、アクセルにもなんとなくわかった。
初めて知ったエックスとゼロの過去の一部分にアクセルは驚いたが、それ以上に2人が自分のことをそんなにも気にかけてくれていたことにアクセルは驚いた。
ゼロは必要最低限以外には無関心に見えたし、エックスは今でも自分の存在を受け入れてくれてはいないと思っていたからだ。
2人の心遣いに、アクセルは胸が熱くなるのを感じた。
しかし、ずっと勘違いしていたことと、隠していた感情を見透かされていたことに羞恥を感じて、下を向いてしまう。

「アクセル、お前に1度聞かなければいけないと思っていた。あのとき…お前を引き止めたオレを、恨んでいるか?」
「…ううん。むしろ感謝してるよ。だって、レッドは…ボクが助かることを望んでくれてただろうから」


だってレッドは、今でもボクを守ってくれている。
アクセルは、確かな自信をもってゼロにそう答えた。


「2人共…ありがとう。でももう大丈夫だよ。無茶も無理もしないから。心配かけてゴメンね」

今までのどこか陰りのある笑顔とは違い、穏やかな顔で笑ったアクセルを見て、エックスとゼロはそのアクセルの言葉を信じることにした。

「それならいいんだ。3日後に、迎えに来るよ」
「…ゆっくり休めよ。じゃあな」
「え…ちょっとゼロ、どこに行くつもり? 君もちゃんとメンテナンスを受けるんだ!」

やべ、と小さく呟いて、駆け出して行くゼロ。
彼を追いかけて走って行くエックスの背中も、レッドやゼロのように大きくて。
ようやくわかった。

レッドだけじゃなくて、あの2人もずっと、自分を守ってくれていたんだと。
だから、その背を大きく感じるのだと。

ありがとう、と口の中で呟き、アクセルは彼等を眩しそうに見送った。


「それではアクセルさん、スリープモードに切り換えますよ」
「うん、よろしく」





レッド。
ありがとう。ボクはもう大丈夫だから。

レッドのこと、忘れようとしたんじゃないよ。
思い出すのが怖かったんだ…あまりにその存在が大きすぎて。
失った悲しみと後悔に、押し潰されそうで…。

…早く強くなりたかった。
大切なものを守れるだけの力が欲しかった。

だから、あんなにもミッションに没頭したんだ。


でも、全部空回りだったんだね。
大切なものを守りたかったのに、結局ボクは守られてるだけだった。
それにずっと気がついていなかった。
ゼロやエックス…、それに今でもレッドがボクを守ってくれていたんだって…。

ゴメンね、馬鹿な奴でさ。もう2度と、あんな無茶はしないから。



無理なんかしなくたって…、急がなくたっていいんだよね?
今はまだ、守られてるだけだけれど…、強くなるから。
大きな背中になってみせるから。


ねぇ、レッド。
だから、心配しなくてもいいよ。

でも、ずっと見守っていてよね。




END




2500HIT猫柳夕耶様のキリリク、「アクセル愛され話」でした。ありがとうございます。
私の趣味により、レクセル風味となっております(笑/しかも微妙にゼロックス)。X7後の設定です。
"誰か"を守る人の背中は、その"守られている者"から見ると実際以上に大きく感じる…。
ずっとレッドに守られていたこと、皆に守られていたことに気がついたアクセルです。
大切な者を失い、無茶を重ねて空回りする彼を見守る周りの人達の愛情が上手く表現できていればいいのですが。
あ、ちなみに私、『アクセルはゼロックスの子供』派ですからv(何その「派」って)

桐屋かなる  2005.3.31(2005.5.29 改訂)
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送