知っていた。心構えもしているつもりだった。それなのに。 いざ現実味を帯びると、オレには本当はそんな覚悟など出来ちゃいないんだと、いつもいつも思い知らされる。 小十郎を失う、覚悟など――。 「Hey 小十郎。具合はどうだ?」 怪我をした小十郎が休んでいる部屋へと訪れた政宗は、中にいる人物を気遣って珍しく静かに襖を開けた。 そっと部屋の中を覗うと、そこには布団に横たわって静かな寝息を立てている彼の右目の姿がある。 穏やかな眠りと顔色から彼の容態に心配な点など無いことがわかって、ひとまず政宗は安堵の息を吐いた。 そのまま足音を立てずに中へと入り、小十郎の傍らへと忍び寄って腰をおろす。 近くで見てみると、顔色は悪くはないが額にうっすらと汗を浮かべているのがわかった。 傷が発熱しているのだろうか。手拭いを取り出すとそっと押さえて拭いながら、改めて小十郎を見下ろす。 物音は立てないようにしているとはいえ、気配までは消していない。 こんなに近くにいるのに、こうして触れてもいるのに、小十郎は目を覚まさない。 それは歴戦の将である竜の右目・片倉小十郎にとって普段ならありえないことで、彼が酷く衰弱していることを暗に示していた。 「小十郎…」 呟くように呼ぶ名に、応える声はない。 自然と政宗の目は、彼の胸部へと向いた。着物の合間から覗く、真っ白な包帯が巻かれている箇所へ。 そして思い出す。 ――「政宗様ッ!」―― 叫ぶように呼ばれた名前。 振り向いた自分の視界に飛び込んできた凶刃。 そして、目の前を覆った見なれた茶色の背中――。 思い出して、政宗はまた一つ身を震わせた。 あの瞬間、本当に呼吸すら止まった。 紛れもない恐怖に、心の臓が凍りついた。 自分を庇い、そして倒れた小十郎の姿を見て。 この存在を、永遠に失ったのかもしれないと――。 結果としては、小十郎は無事だった。然程深刻になるような怪我でもなかった。 だが、この一件が深く政宗を打ちのめしたことは事実だ。 知っていた。心構えもしているつもりだった。それなのに。 いざ現実味を帯びたその時、本当はそんな覚悟など出来てはいなかったのだと、政宗は改めて思い知らされた。 小十郎を失うという事がどういう事なのか、本当に考えることなど不可能なのだ。 そんなことは有り得ないと、心のどこかで思っている自分がいる。 ましてや、それを覚悟することなど…。 そして自覚させられてしまう。独眼竜・伊達政宗は、その右目を失うことなど出来はしないのだと。 誰よりも長く、誰よりも傍にいる存在。 もはや片倉小十郎景綱は伊達藤次郎政宗という人物を成り立たせる一つの要素であり、その一部と言っても過言ではない。 もしも小十郎を失えば、政宗は政宗でなくなってしまうのだろう。 右目の死は、イコール竜の死なのだ。 「許せ…小十郎…」 一つしかない竜の目から、涙が零れて頬を伝った。 小十郎は自分のために死する覚悟を決めている。自分を守ることに命をかけてくれている。 彼のその決意と意思は間違いなく嬉しいし、喜びでもある。 だがそれなのに、自分はいつまでたってもそのことを本当に覚悟することが出来ないのだ。 このままでは、彼の思いを、願いを、無駄にしてしまうかもしれない。 それでも自分は、一人残されることになど耐えられそうにないのだと…。 いつの間にか、布団の間から出てしまっていた小十郎の手に触れる。 いつもは政宗よりも冷たいはずの小十郎の手が、熱を帯びていて熱かった。 生きている。 そう実感して、思わず政宗はその手を両手で強く握り締めた。 そしてそれから、確かめるように目を閉じて彼の左胸へと自分の耳を押し当てた。 生きている。 生きて自分の傍にいる。 そのことが、ただ酷く嬉しかった。 「Do not leave me…」 普段なら絶対に言わない言葉が、言えない言葉が、政宗の口から零れ落ちる。 やはり応える声はなかった。 ただ、大きくて温かい手のひらが政宗の髪を掻き上げ、指に絡めるようにくしゃりと撫でただけだった。 終 初・BASARA2小十政創作(小政?小十宗?小伊達?どれで呼べばいいのかいまいち分からない…)。 あっ、甘いなオイ…orz 取りあえず叫んでおこうか。「甘―――いッ!」(某スピード○ゴン風に)。 あれれ?どうしてこんな路線になったんだ? うちの政宗様は小十郎が大好きです(見りゃわかる)。と言うかもう依存してるかもしれない。 …まぁそれは、小十郎もそうなんですけど。うちの2人は相手がいなければ自分という存在を保てない程に。 (小十郎の「暗闇の中に光が一つ。それだけが俺の心を繋ぎ止める」って台詞が妄想に拍車をかけた) 小十郎は、政宗様の為に死する覚悟を決めてます。ゲーム中でもよく言ってるし。 そして政宗様は、それを受け止めているつもりでいる。…けれど、本当の所では覚悟できちゃいない。 それが、小十郎死亡時の台詞「……小十郎?」に現れていると勝手に思ってる(あの声音は最高だ)。 理解しているつもりで、わかっているつもりで、小十郎が死ぬことなど有り得ないと思ってた感がある。 オレを守ってくれる事は嬉しい。でも、オレを守って死ぬな。一人残して逝くな。 本当は政宗様はそう思ってる。でも言えない。 そして小十郎は全てわかっていながら、それでもやはり"その時"が来れば政宗様を守って死ぬと決めている。だから「オレを残していくな」の言葉に応えられない。そんなうちの伊達主従(あれ?甘いか?)。 桐屋かなる 2006.8.23 |
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