「佐助。すまんが幸村にこれを届けてくれぬか?」 頭の中でよみがえる、お館様の声。 今朝、旦那のはちまきを俺に渡しながら言った、あの言葉。 「では頼んだぞ、佐助よ」 立ち去る間際、俺に向けられた、視線。 まいったね。お館様は全部お見通しってこった。 俺が気がついていることも、知らないフリをしていることも、全て…。 やーれやれ。やっぱお館様には敵わないわ。 さすが大将、真田の旦那が惚れるわけだ…ってね。 気がついたのは、もう随分前のことだ。 最初は、ちょっとした違和感だった。 いつも通り。そう、いつも通りの大将と旦那のやり取りに、どこか違和感を感じた。 不思議に思って見ていると、目についたのは、ふとしたときに一瞬見せる真田の旦那のしぐさ。 穏やかな表情。 小さな溜め息。 首筋に当てられる手。 朱に染まる頬。 緩やかに孤を描く唇。 その視線の先には、常に同じ人物がいた。 『お館様』 真田の旦那が大将のことを人生の師として仰ぎ、敬愛しているってことは周知の事実だ。 何かあれば二言目には「お館様」。武田軍に属してる奴なら誰一人として知らない奴はいないでしょ。 そりゃもう、うるさいくらいに「お館様ぁぁあああ!」って叫んでるしねぇ。 明朗快活、猪突猛進、いつでも熱血ってのが俺の知ってた真田の旦那。 知らなかった旦那の一面を見て、それが違和感の正体なのかと思った。 ――でも、俺はそれからすぐに、本当の答えに辿り着いた。 旦那だけじゃない。大将のことも意識して見ていれば、それは一目瞭然だった。 ときおり交わされる視線に孕む、刹那の熱。 互いを呼ぶ声に僅かに帯びる、常とは違う色。 その瞬間『あぁ、そうか』って、全部わかったのさ。 お館様と旦那は、そういう関係なんだってね。 そして俺はそれ以来、ずっと何も知らないフリを続けている。 「真田の旦那」 肩に愛用のニ槍をかつぎ廊下を走る旦那を見かけて、その背中に声をかけた。 時刻はもう、日が昇ってから数刻が経った頃だ。 「おお、佐助か。何かあったか?」 「今日も槍の修練? やるねえ」 「うむ、お館様がご上洛する日も近いからな!」 目を輝かせて、嬉しそうに笑う旦那。その様子は、昔と何一つ変わらない。 ホント、いい顔してるよ。あぁ、それでこそあんただって心底思う。 「少しでもお館様のお役にたたねば! 佐助も働くのだぞ!!」 「はいはい」 駆けて行く旦那の背を、俺はただじっと見送った。 その後ろ姿に足りないのは、いつも長い髪と共に風になびいているはずの「赤」。 はちまき、どこに忘れてきたわけ? 聞いたら、旦那はどう答えただろう。 旦那、俺知ってるんだぜ? あんたが昨夜どこにいたのか。 ――俺が本当に聞くことは、決してないけれど。 「やれやれ…はちまきの存在忘れてるのかね、あの様子じゃ」 旦那には、何一つ気づかれるつもりはない。 口にすれば、きっと崩れてしまう。俺が守ってきたものが。 だから、今のままでいい。 いや、違うな。今のままがいいんだ。 俺はこれからも、何も知らないフリを続けるだろう。 何も変わらない。俺は今まで通り、真田忍隊の長として武田家に仕える。 大将の命を受けて働いて、突っ走りがちなあんたを陰で支えて。 主と部下らしくもなく、対等に話したり笑いあったり説教したり。 この生活、俺結構気に入ってるわけよ。 だから、頼む旦那。あんたは何も気づかないでくれよな。 「さぁて。これ、どーやって旦那に渡そうかねぇ」 陰でしか生きられない愚かな男が、少し暖かな光に憧れただけ。 ただ、それだけの話さ。 終 佐助視点で信玄×幸村………のハズだったのに、何やら佐助がメインになってるぞ(汗)。 しかも、信玄×幸村前提の佐助→幸村みたいになってる…。あれ? それと、どーにも幸村が別人だ…(滝汗)。ちょっと大人しいって言うか乙女入ってるか…? 信玄×幸村前提なら、佐助→幸村も結構好きですけどね。報われない佐助萌え(爆)。 「幸村は何も気付かない。佐助も気付かせない。でもお館様は気付いてる」が玄幸←佐のテーマです。 一応佐助は、佐助→かすが(もしくは佐助⇔かすが)が1番好きなんですけどね。 あと、あれ。おかん佐助(笑)。おかん佐助大プッシュです。 …もしかしなくても私、佐助のこと大好き?(笑) 佐助書きやすいから愛着沸いてきたのかもしれない。 ゲームでも使い勝手イイもんなぁ。さすが忍! でも最愛はお館様です!! 桐屋かなる 2005.9.21 |
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