武田軍武将、真田幸村。
自他共に認める、超お館様フリークである。

「来る…」
「旦那? どうしちゃったのよ? そんな真面目な顔して」


その日、愛用の二槍を握り締め、幸村は前方をただじっと睨み据えていた。
来るべき最大の敵との闘いを前にして、より一層緊張が高まる。

「は? ちょっと待ちなって。今度の戦の相手は、伊達軍じゃないぜ?」

誰が政宗が相手だと言いましたか、佐助君。っていうかナレーションに突っ込むのやめてください。

「そんなこと言われてもねえ。気になる――」


決戦のときは刻一刻と迫ってきていた。此度の勝負、勝つのは真田幸村か、それとも…。

「っておい、俺もう無視なわけ!? ちょっとー!!」


真田幸村と森蘭丸、『主馬鹿同士』による勝負の火蓋が今、切って落とされようとしていた!





譲れぬ主張〜犬猿の仲〜





某日、某所(多分、川中島のどこか)。
そこに、今にも火花が散りそうなほど鋭い眼光で睨み合う真田幸村と森蘭丸がいた。
どちらも一歩も引かぬ気迫。まさに一触即発の雰囲気である。
先に動いたのは蘭丸だ。矢を握り締めて弓を番え、幸村に照準を合わせる。

「蘭丸、来たよ! お前をやっつけにね!」

織田信長の小姓、森蘭丸。
幸村のお館様フリークに負けぬほど、信長に心酔している少年である。

「ここで会ったが百年目、いざ尋常に勝負!」

幸村も負けてはいない。二槍を構え、万全の体勢を整える。




2人が顔を合わせるのは、これが初めてではない。以前、戦場で会っているのだ。
相手の印象は、最悪。
お館様命の幸村と、信長様命の蘭丸…。反りが合うわけがなかった。

彼らがここまで対立することになった原因は、合戦中のお互いの台詞だ。





「やりましたぞ、お館様ぁ!」
「信長様ー、蘭丸、やりましたよ!」
「「…」」

被っている。


「見ていてくだされ、お館様!」
「信長様、蘭丸を見ててください!」
「「……」」

やっぱり被っている。


「お館様にはむかおうなど、笑止千万!」
「信長様に逆らうなんて、許さねぇ!」
「「………(ムカッ)」」

間違いなく被っている。


「援軍だ! さすがはお館様!」
「増援を用意するなんて、さすが信長様!」
「「…………(怒)」」

主への言葉が被っている。


「さすがお館様、甲斐、いや、天下の虎だ!」
「さすがは蘭丸の天下人!」
「「……………(激怒)」」

敬愛する主を褒め称える言葉が被っている。


「しかってくだされ…お館…様…」
「信長様…ほめて…ほし…かった…」
「「………………(プチッ)」」

死ぬ時すら主のことしか考えていないことまで、被っている。





この被り具合が、いけなかった。



「もはや我慢ならぬ! この幸村の真似をするのは止めて頂きたい!!」

キレた幸村が蘭丸の所へ怒鳴り込んで行くと、蘭丸も物凄い形相で幸村に詰め寄った。

「なんだよ! お前が蘭丸の真似してるんだろ! そっちこそ止めろよ!!」

そして始まった、戦そっちのけの怒鳴り合い。

「な…っ、心外でござる! お館様への思いの詰まった言葉を真似などと! 取り消せ!!」
「お前こそ! 蘭丸は信長様への思いを込めて喋ってるんだからな! お前の言葉なんかと一緒なわけないだろ!!」
「この幸村の言葉は、お館様のすばらしさ故に自ずと出てくる魂の叫び! 邪魔をするなぁあ!!」
「邪魔してるのはそっちだろ! 大体、信長様が一番凄いんだからな!」
「戯言を! お館様こそが天下一でござる!」
「調子に乗ってんじゃねぇぞ! 信長様は、他のヤツらとは格が違うんだ!!」
「その言葉、お館様への侮辱にも等しい…聞き捨てならぬ! みしるし、頂戴いたすッ!」
「お前、生意気だぞ! 殺す! お前は蘭丸が殺す!!」



…といった感じで、幸村と蘭丸の一騎打ちとなったのだ。
その時は、結局両軍が撤退することとなったので勝負はお預け。彼らの決着は、次の機会へと持ち越されたのである。

そして、再び今。両雄、相見える時が来た。







「あかいの! 今日こそ、信長様にひざまづけ!」

蘭丸の放った矢が、寸分狂わぬ性格さで幸村へと飛来する。
しかし幸村は冷静に、槍を体の前で回転させることによってその攻撃を防いだ。

「笑止! 戦の褒美にこんぺいとう三つしか与えぬような大将など、お館様の足元にも及ばぬ!」

大地を蹴立ててすかさず間合いを詰め、電光石火のごとき突きを真正面から繰り出す幸村。

「そ、それの何が悪いんだ! 信長様が直々にくださるんだぞ!! 凄いことなんだからな!!」

その一撃を、蘭丸は後ろへ軽く跳躍してあざやかにやりすごす。
そして攻撃が空振りに終わって隙ができた幸村へと、間髪入れず矢の雨を降らせた。

「それに比べ、お館様は情に厚く懐の深いお方! やはりお館様こそが天下一!」

幸村はとっさに身をひねって飛び退る。
矢は紅い軌道を追いかけたが、しかしながら幸村を捕らえることはできなかった。

「なんだとー! 信長様は優しいんだぞ! お前なんかしょっちゅう殴られてるくせに!」

――停滞は、一瞬。

「あ、あれは違う! あの拳は、お館様の御心でござる!!」

炎を纏った幸村の槍と、雷を帯びた蘭丸の弓矢が再び接近する。
莫大な力同士のぶつかり合いは辺り一面の地形を変化させるほどだったが、二人にはそんなことなど目に入らない。

「信長様は、蘭丸を拳で殴ったりしないもんねー。やっぱり信長様が一番だ!」
「言わせておけばっ! お館様はご自分の面を貸し与えてくれる上に、この幸村の危機に助太刀してくれるでござるよ! 織田殿はいかに!?」
「うっ…」
「それに、お館様はご自分が倒れられるときまで幸村の名を呼んでくれるでござる! 感激ぃ!!」
「の、信長様はそんなことしてくれないけど…でも! 信長様は倒れる時の演出が特別なんだぞ!」
「な、なんと!」
「それに、ステージクリアのときの演出も特別っぽいし! なんてったって信長様は海外版の主役なんだからな!!」



延々と、彼らは互いの主の凄いところを言い合いながら戦闘を続けたのだ。
前回は言い合いの後に闘ったのだが、今回はもう怒りが押さえられなかったようだ。
しかし、凄い。ある意味凄い。


しかも、幸村も蘭丸も、少しも相手に譲らぬ姿勢のままである。
この勝負、どちらかが倒れるか屈するかまで終わらない、と誰もが思ったその時――。



「「このたわけが!」」



突然の拳骨とハリセンの一撃によって、それは呆気無く幕を閉じた。

「っ、お館様!!」
「の、信長様〜!」

そう、両大将の登場である。
冒頭の幸村と蘭丸に負けずとも劣らぬ眼の付け合いを繰り広げる大将の後ろから出てきたのは、佐助と濃姫だ。

「旦那、もう今度の戦は終わりってわけ。さ、帰るぜ」
「蘭丸くん、今日はもう引き上げるわ。一緒に戻りましょう」

そして、大将に睨まれて縮こまってしまった子犬と小猿を回収していく。
引き離された両者は、しかしながらそれでも相手に牙を剥いた。

「さ、佐助、離せっ! うおお、お館様こそ天下一ぃい! 潔く認めよ!!」
「濃姫様、離してください! あいつに信長様のすごさを解らせてやるんです!!」

ジタバタと暴れながらキャンキャン・キーキーと喚く幸村と蘭丸の姿に、両保護者その2(その1は両大将)は深い溜め息をつく。

「…あんた達、ここに何しに来たわけ…?」
「…やっぱり『犬』と『猿』だからいけないのかしら…」


そして、踵を返して背中を向け合っていた両軍の総大将達は、同時に同じ事を考えたのだった。



もう、あそこの領地に攻め込むのは止めよう、と…。





幸村と蘭丸の勝負に決着が着く日は、来るのだろうか。



「ぅお館様だぁぁああああ!!!」
「絶対、信長様だ―――!!!」




終?




幸村と蘭丸って、まさに犬と猿…犬猿の仲だよね、といった妄想から生まれたお遊び文。
蘭丸が幸村のことを「あかいの!」とか呼んでたところから、仲が悪いのかなぁと思って。

同じ主馬鹿同士、意気統合しても良さそうですけど、この2人は反発し合いそうです。
幸村とかすがはそんなことなさそう…っていうか、かすがが結構幸村に好意的な発言してたような。
えっと、何だっけ。「誰かの為に戦える…。おまえのことは、わかる気がする…」だっけ?

作中の台詞は、出来るだけゲームのものをそのまま使用してみました。
こう見ると、やっぱ被ってますよねぇ(笑)。2人共、「お館様!」「信長様!」ばっかり。

とにかく、書いてて楽しかった…けど、きっともう誰かがネタにしてるよね(汗)。

桐屋かなる  2005.9.22
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